不動産売却の悩みどころ

一つの原理で組み上げられた制度というものは、その一つの原理が崩れれば総崩れになるだけのことなのである。 最先端のコーポレート・ガバナンスを作り上げてきたと信じていたアメリカ人にとって、肝心の原理に欠陥があることが明らかになったのは、きわめて深刻な事態だった。
経済誌のなかには「現代資本主義の崩壊」とまで書いたものすらある。 B政権は事件直後、あわてて有力企業の最高経営責任者に自社の会計に関する誓約書を提出させたが、そこには「私の知る限り、私の会社の会計は適正」という言葉が入っていた。
「私の知る限り」との留保が入っている限り、経営者が実は無責任でも罪に問われることはないだろうと、英経済誌「E」二○○二年八月十七日号が表紙の漫画でからかったものだ。 この誓約書など、ただの政治的サル芝居だったのである。
アメリカ型経営にも多くの問題があるというと、決まったように「アメリカではE事件後の二○○二年七月に改革のためのサーベンス・オックスリー法が成立した」とか「アメリ力には自浄力があるところが日本と違う」などと言う論者が現れる。 では、アメリカでの一連の改革を見てみよう。
E事件後にもっとも関心が集まったのは、Eの会計監査をしながら同時に経営コンサルタントも引き受け、「利益相反」を起こしてしまったUのような会計事務所に対する監督の強化だった。 そのなかで最も大きかったのは新しい独立監視機関の仕組みを作ったことだといわれる。
それまでは、基本的に公認会計士の業界団体による「自治」を認めて、その業界団体の内部にある組織が、会計事務所の調査や検査を行うという仕組みを採用していた。 ただ、それだけでは客観性が保てないので、別に独立した監視機関を設けて監視組織の活動をさらに監視したわけである。

しかし、この「独立監視機関」は、資金を公認会計士団体から得ていたので、独立していることになってはいても実際には強い監視の効果は期待できなかった。 そこで、この独立監視機関に替えて「新独立監視機関」を設置し、「自治」ではなくSEC(証券取引委員会)の傘下におき、権限も強くして監視の効果を高めるというのが改革の大枠である。
E事件を調査し、どこに制度の「穴」があるかを発見して強化したわけで、日本でL事件やMファンド事件が起こってから金融商品取引法などで制度上の「穴」を埋めていったのと、対応方法においてそれほど大きな違いがあるわけではない。 サーベンス・オックスリー法は、コーポレート・ガバナンス改革にも踏み込んだが、中心となって見直しを図ったのはニューヨーク証券取引所とナスダックだった。
両取引所が上場基準の見直しという形で、コーポレート・ガバナンスを再生させようとしたのである。 たとえば、取締役会の独立性の強化を試みた。
両取引所とも「取締役会の過半数は独立取締役であること」とし、この「独立取締役」をニューヨーク証券取引所の場合には「当該企業と直接にも間接にも重要な関係を持たない者」とし、さらに元役職員が独立取締役となるには五年間は会社に無関係でなければならないと定めた。 一方、ナスダックのほうも、政治献金を受けている人物や、家族が会社から金銭を一受け取っている者は独立取締役とはなれず、また、過去三年間に会社から総収入の五%もしくは二十万ドル以上の支払いを受け取っている者も排除されるというものだった。
同じように企業内にある監査委員会や報酬委員会の強化もなされた。 とはいえ、ある調査機関によれば、二○○○年の調査でもS&P構成企業千五百社の場合、平均して取締役会全体に占める独立社外取締役の比率は六八・七%であり、監査委員会に占める独立社外取締役の比率は八七・九%、報酬委員会が九三・○%、指名委員会が七九・一%ときわめて高かった(F・O編「検証アメリカの資本市場改革」N経済新聞社)。
この独立取締役の割合のデータが、E事件発覚以前のものであることを考えると、取締役会や監査委員会の形式的な独立性を高める規制が、不正防止に対して実際にどれほど効果があるのか、いまひとつ分からない。 この点については、サーベンス・オックスリー法も、踏み込んで完全分離を主張はしていない。
専門家のなかには、取締役会議長とCEOの完全分離を義務づけているイギリス型コーポレート・ガバナンスを、むしろ優れたものと見る者がすくなくない。 アメリカにおける「改革」で、もつとも難しかったのはストック・オプションの改革だった。
E事件を分析したときイギリスの経済誌「E」二○○二年五月十八日号が、ストック・オプションを「悪いニンジン」と呼んだように、経営陣から社員、社外取締役に至るまで、ストック・オプションの恩恵にどっぷりと漬かることで、株高経営に駆り立てられただけでなく、さらに会計不正まで引き起こすことになる。 しかし、改革のなかでストック・オプションが問題にされたのは、第一に、この仕組みが一般株主に損をさせてしまうという懸念だった。

この権利をもらった人物が、株式を安く購入できるのでは、株主の発行株式の「持ち分」を希釈してしまうというわけだ。 では、これから本格的なM&A時代を迎える日本の経済システムはどの程度整備されただろうか。
まず会計不正問題だが、アメリカのE事件とその後の改革への動向を受けて、金融庁はかなり徹底した改革に乗り出した。 二○○四年四月、金融庁に「公認会計士・監査審査会」が設置された。
審査会は監査法人や公認会計士、さらには企業に立ち入り検査する権限を持ち、不正があれば処分を金融庁に勧告することができる。 これはアメリカのSECをまねた、公的機関介入を前提とする制度改革ということができる。
とはいえ、会計制度改革で読者に思い出していただきたいのは、九○年代を通じて、N本経済新聞や会計監査法人が「日本は時価会計にすればバブル崩壊のさいのような不正は起こらない」と盛んに宣伝していたことだ。 日本企業はその言葉を真に受けて、本来関係のないような中小企業まで早々と時価会計を導入した。
さて、その結果はどうだったろうか。 時価会計にしたからといって、透明性が増して会計不正が起こらなくなったわけではない。

むしろ、時価会計にあわせるために資産を売り払ってしまった企業や、はては経営が行き詰まって倒産してしまった企業まであった。 それだけではない。
時価会計に特有の抜け道もあり、デリバティブに絡んだ不正も多発している。 しかもK粉飾事件では、時価会計導入を煽ってきたOが理事長だった、T央青山監査法人(当時)の会計士が不正を犯したのである。
E事件のさいにもいわれたことだが、あらゆる不正を見抜くような透明な会計基準など、もともとこの世に存在しない。 たとえば、アメリカ会計基準とヨ−ロッパ会計基準を両方使えば、すこしは不正を発見する確率は高くなるかもしれない。
しかし、基準変更を行ない、監視強化をしただけで、不正を根絶することなどできないのである。 今回の金融庁による会計士監査の強化も、金融庁に権力の集中がなされたかっこうだが、同庁に不正をつぎつぎに発見していく人員と能力があるかは疑問だろう。
ちなみに、「公認会計士・監査審査会」には、Oが委員として加わっており、その理由が「実務がわかる人が必要」だからと報じられていた。

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